『皇道霊学講話』

目次


谷口君が初めて其姿を大本の修行場たる金龍殿に現したのは、大正七年の9月であった。近頃は毎日の修行者が二三百人に上るが、当時はせいぜい四五十人位のもので、講演も鎮魂も主として私一人の受持であった。

谷口君は其蒼白な、いささか憔悴気味ある顔を聴講者の間に並べて、黙って聴いて居た。坐談の際にも、その人々とは混らず、控え目な、超越したような態度を執って居た。かくて約三週間ばかりが経過したが、私は其間に極めて簡単な一二語を交えたに過ぎなかった。

大本修養者の中にの随分熱性のものが多い。立替の時間の切迫、日本人の使命天職、神の実在とその経綸、各自の改心、未曾有の国難来―今迄夢にも想わなかった是等の問題が、一つ一つ実証的に心の鏡に映じ出して来るとモ-矢も楯も耐えらない。在来の仕事も何も手に附かぬようになって、血眼になって来る。

谷口君には其様な熱はない、何所までも冷えて居る。大声せず、叱呼せず、孤坐独棲、そして空想と思索に耽ると云った風である。何ちらかといへば詩人肌といわんより、哲学者肌の要素が多い。感情よりは、寧ろ理性に縋りて信仰の険路を一歩一歩に踏みしめて登り行くという趣味がある。私はこの人は早く綾部に来る人ではないと見当をつけた。

黙って来、黙って聴き、黙って去った谷口君は爾来数ヶ月間杳として其消息を知らさなかったが、その頃神戸に新設された支部などにも出入りし、数々の奇抜な霊的現象を調査する傍ら、大本神諭の研究し、漸く大本で説く皇道霊学の真味を捕え得たらしい。

情熱のみで働く人は、ややもすれば冷め易い。

頭脳の悪い人は、下らぬ議論や薄っぺらな学説に迷される。

金銭や地位のある人は妥協的に流れる。老人は兎角優柔不断に陥る。谷口君には幸い此等の何れにも煩累が無かった。そして翌くる大正8年の早春には、神戸を後に綾部に移住して来た。私は案外早く形がついたと歓んだ。

それから谷口君は全然皇道大本の畑の人となった。雑誌『神霊界』の編輯に当ったり、霊学に関する谷口一流の研究を筆に書いたり、口で説いたり、やがて大本の機関新聞『大本時報』の刊行されるや、其編輯を助け其間に大本神諭類纂という大仕事にも専心努力した。が、何と云っても、谷口君の三年続きの研究の肝脳ともいうべきものは本書に収められている。

皇道霊学は天地の創造と其淵源を均うし、これほど古い学問は無い。が、崇神天皇が和光同塵の神策を取らせ給い、全然世に埋もるること爰に2千歳、今回綾部に国祖神と共に復活したのであるから、これほど新しい学問は又外に無い。

それ丈頑冥不霊な腐儒、学究をはじめ、殆ど満天下の非難、攻撃、讒悔、嘲弄の標的と成りつつあるは無理もない話である。谷口君が敢然として其鋭い研究のメスを之に向けたのは寔に天下の快挙と謂わねばならぬ。

皇道霊学の範囲は広くして且つ深い。実は天地間一切の事物、哲学も、科学も、宗教も、政治も、軍治も、経済も其他有ゆるものも悉く此内に抱擁されて帰一融合されねばならぬ。

此質のものである。これからは苟くも研究的良心のあるものならば、天下を挙げて此方面に殺到して来るに相違ない。

百人や千人、百年や千年、人間がド-切っても、それで際限窮極が見付かる学問ではない。谷口君が兎も角も先鞭を之につけたのは、それ丈で既に燗眼である。後日何人か現われて研究の歩を進めるにしても、此第一人を無視することは出来ない。

真信仰に入るべき途は、人毎にめいめい異なると云って可い。奇蹟から入るもの、神諭からも入るもの、病気から入るもの、不幸災厄から入るもの、燗悶焦慮から入るもの等数え尽すべきもない。が、知識尊重の癖をつけられた現代人士は、矢張り霊学方面から入りたがる。本書は現代人士の要求の大半を充たすものであると確信する。

此点から見ても本書出版の意義は充分だと思う。

大正964日修齋会本部に於いて

   浅野和三郎

 

 

序にかへて

第一章 総説

1.科学界の覚醒

2.驚異すべき大本神諭の内容

3.泰西に於ける交霊術の価値

 

第二章 最近の世界思潮と其矛盾

 1.霊学なき改造運動と芸術批評

 2.霊的問題は社会改造の根本義

 3.民主主義及無神論跋扈

 

第三章 宇宙の本質と言霊元子

 1.全大宇宙の本質

 2.言霊元子の活動と時間空間

 

第四章 言霊元子活動の天則

 1.全大宇宙の活動を表現する言霊

 2.陰陽火水霊体二元の誕生

 3.産霊の意義と新陳代謝の天則

 4.積極性と消極性との共同活動

 5.御筆先に現われたる天地の創造

 6.人類の聲音と宇宙の言霊

 7.葦芽比古遲神と微分子の構成

 8.霊系と体系との複雑な交錯

 9.体と霊とは何れが主か

 10.男女の社会連帯と母性の復興

 11.霊の男女性と体の男女性

 12.産霊と霊主体従との根本原則

 13.産霊の究極目的は何であるか

 

第五章 神力の発現と自然現象

 1.最近科学と自然哲学の批判

 2.至大天球の位置のエネルギ-

 3.八力の諸神の顕現とその分担

 4.宇宙に遍遲して個体を有せる神

 

第六章 基督再臨問題と其意義

 1.  基督再臨問題の貫き鍵

 2.如何にキリストは再臨するのか

 3.所謂秘密の経綸とは何ぞ

 4.再臨の基督とは如何なる人ぞ

 5.大本神諭とバイブル

 

第七章 世界の立替立直と其時期

 1. 立替立直とは何ぞ

 2.ダニエル書に現われたる世界の終末

 3.建替切迫せる今日の男女問題

 4.古事記に現われたる三貴士

 

第八章 人類の起源と其進化

 1.大本神諭の教ゆる人類の起源

 2.天孫民族は猿の子孫にあらず

 3.人類発生率より観たる日本人

 4.天孫降臨前の先住種族

 

第九章 日本対世界の大葛藤

 1.古事記に表はれた大預言

 2.神政成就世界統一後の楽天地

 

第十章 日本人の使命と世界統一

 1.宇宙の普遍意思と日本の使命

 2.平等の差別と差別ある平等

 3.日本は世界統一の資格ありや

 

第十一章 霊魂と宇宙意思

 1.生物の霊魂と無生物の霊魂

 2.肉体の龍神と霊魂の龍神

 3.受胎に現われたる宇宙意思

 4.細胞霊魂の神権君主組織

 

第十二章 霊魂の人格的存在

 1.人格我と細胞霊魂の関係

 2.死後の霊魂の生活状態

 3.死といふ現象の真意義

 4.所謂交霊現象の本体

 5.動物霊は人類に憑依するか

 

第十三章 憑霊現象と心理学者の誤解

 1.心理学者の潜在意識説

 2.心理学者の提供せる一実例

 3.所謂潜在意識の自働現象

 4.心理学者の所謂第二人格

 5.精神交感に伴ふ幽霊現象

 6.様々の隠身と神憑現象

 7.悪霊の駆逐と其方法

 

第十四章 守護神とは何ぞ

 1.自己の霊魂と正守護神

 2.守護神の三種類

 3.守護神の奉齋と其歴史

 4.祖先の霊魂の奉齋

 

第十五章 鎮魂帰神の価値

 1.正守護神の司る役目

 2.鎮魂帰神と催眠術の暗示

 

神道・神仙道啓蒙瓦版からの『皇道霊学講話』の紹介文

この『皇道霊学講話』という本は一部の人しかその値打ちを知らない。

とりわけ、生長の家の信徒の人がその値打ちを把握していないのが残念ですが、霊学においては一流の本であり、霊学を勉学するものには必携の本である。

下記に神道・神仙道啓蒙瓦版に下記の読後感想文がある。

当時の「霊学」においては鮮明な文章であり、独特な思想展開により日本独特の神道のと心理学を通しての「霊学」をみております。

それでは、少し目次では私の文章と重複しますが御覧下さい。

現在、大本にあるミロクという名称も「谷口雅春」先生が最初に使われています。

また、大本の言葉であるような文章でも実は「谷口」先生が最初に説かれたと解する文章があります。

 

 

 

 皇道霊學講話-1

 

『皇道霊学講和』

 


『皇道霊学講話』 谷口正治著
  大正9年六月初版 新光社発行 全332

 かの谷口雅春氏がまだ谷口正治と称していた時代に書かれた古典的名著ですが、現在入手は殆ど困難な本です。
 友清氏の「霊学筌蹄」と双璧をなす書籍と云われていますが、その名のみ知られ本書に就いてはその希少性から殆ど語られることはございませんでした。
 霊学筌蹄は誰にでもすぐに買えますので是非お読み比べをして戴きたいと思います。

尚、序文は浅野和三郎氏が書かれています。
 
目次 
 第一章 総説
 第二章 最近の生活思潮と其矛盾
 第三章 宇宙の本質と言霊元子
 第四章 言霊元子活動の天則
 第五章 神力の発現と自然現象
 第六章 基督再降臨問題と其意識
 第七章 世界の立替立直と其時期
 第八章 人類の起源と其進化
 第九章 日本体世界の大葛藤
 第十章 日本人の使命と世界統一
 第十一章 霊魂と宇宙意思
 第十ニ章 霊魂の人格的存在
 第十三章 憑霊現象と心理学者の誤解
 第十四章 守護神とは何ぞ
 第十五章 鎮魂帰神の価値

 本書は神道のみならず様々な視点から書かれており、この時代にしてこの卓見に達したる谷口氏には敬伯するしかありません。

又本書では田中守平の太霊道の批判などもしており、とても興味深いものがあります。
「太霊道の田中守平氏は宇宙独一眞神を指して太霊と称しているが、氏は一方には太霊には意思を有せずと称してその超越的思想を誇るかに見るると同時に、他方に於いて宇宙一切凡総事物太霊の霊勅に出づると称しているのは、甚だしい幼稚な矛盾に陥ったのである。太霊の霊動とは天之御中主大神の智情意の他の何であるか?それは余りにも明白な錯誤であると云うべきである。云々」
とかなりのページを割いて弾劾しており、これも当時の文献ならではの記述であると思います。

また著者は「六六六」を「みろく」と解し、また神は「火水」とも云えると持論を展開している。キリストも独自のことたま論にて一太刀で斬り捨てています。
独自の言霊理論を縦横無尽に展開し、持論を懇々と説いております。

よくもまあこれだけの内容を要所を掴んでテキパキと書かれたものだと関心します。
谷口氏はまさしく稀代の方だったと再確認出来る書であろうと思われます